岩手県有形民俗資料デ−タベ−ス2003について

データベース作成までの経緯

 岩手大学人文社会科学部の学芸員養成課程では、履修科目の「博物館実習」で、実習のひとつに「有形民俗資料の実測図作製実習」を取り入れている。

  当実習は「博物館の核である資料とは何か」について、学生の理解を促すことに一義的目標があり、「実測図集」を自家製本して終了する。

  この実習で対象とする資料は、昭和30年代頃まで使用されていた「もの」、いわゆる有形民俗資料である。対象としている理由は、世代の交替その他諸々の事情から、それらが「ごみ、がらくた」同然の認識で捨てられ燃やされている状況にあることから、「もの」を記録保存しておくことの必要性を痛感したためである。

  また「もの」にかかわる情報の採集についても、真実の聞き取り調査ができる最後の時代に私達が直面していると認識し、1988(昭和63)年度から「もの」と「ひと」が共存している地域を聞き取り調査順位の筆頭に挙げ、対象を変えながら調査を継続し2003(平成15)年度現在に至っている。「実測図集」は現在16集を重ねた。 

  この調査で得られた成果は、資料1点につき聞き取り調査によるデータ、資料写真、実測図等であり、その内容は学術的価値の高いものである。これまでに3冊の本を刊行し社会化を図ってきたが、より一層広範囲な活用をめざしてデータベース化に取り組んでいる。

岩手県有形民俗資料データベース2003の母胎

 当データベースは16集の「実測図集」の第1集〜第5集分で構成しており、対象の資料群は「長内コレクション」の資料の一部と「岩泉家資料」である。

 「長内コレクション」とは岩手県九戸郡山形村川井在住の長内三蔵氏(1916=大正5年生)が採集し、自宅に「ふるさと資料館」と称して保管展示している資料群である。

  山形村の文化財保護委員を務めておられた長内氏は、地域の人々を支えた生活用具が「ごみ、がらくた」として捨てられ、焼却されることに危機感をつのらせ、1975(昭和50)年頃から民具の収集に力を注いでこられた。

  当時の日本は高度の経済成長を成し遂げた時期であり、生活スタイルが一新され、縄文時代以来の伝統を持った生活用具がせっせと捨てられた。

  このデータベースの中には「不燃物ごみ投棄場(通称ごみ捨て場)」から長内氏によって救われた資料が多数含まれている。長内氏は民家の建て替えがあると知れば「ごみ捨て場」に出かけて採集したため、「もの」の戸籍を詳細に知っておられる場合が少なくなかった。

  しかしそれらの情報を私達が公表する場合は、「もの」が抱えている諸事情、あるいは学術的価値を損なわないようにするため、旧所有者名は明記せずに「不燃物ごみ投棄場採集」と記して他と区別した。

  「長内コレクション」がもっている性格上、データ記入欄は必然的に空白部分が多くなっている。このことは、有形民俗資料いわゆる民具を使用した生活文化の節目の状況を、そのままデータベースが物語るものと言えなくもない。視点を変えれば、その空白部分こそが雄弁に物語る真実もある訳である。

  私達の調査は「長内コレクション」から出発したため、自ずと次に進むべき路が定まった。

  「長内コレクション」と同様の性格をもった資料群は日本の至るところに存在している。それらの資料価値を高める唯一の方法は、実生活の中で有形民俗資料いわゆる民具を作った経験者あるいは使用した経験者から、できるだけ多くの情報を聞き取って整理し、記録保存することであると考えている。

  そうすることによって、集積された情報が自ずとバックデータを持たない資料の情報を補完することになり、それらの資料価値を高めていくことにつながるからである。

  そこで「生の情報」が得られる「ひと」と「もの」が共存している地域の聞き取り調査を緊急に行う必要があると判断し、「長内コレクション」の調査を一時中断した。そのため、「長内コレクション」は180点の調査にとどまっており、当データベースでコレクションの全容を掴める内容にはなっていない。

 「岩泉家資料」とは岩手県久慈市山根町端神在住の故岩泉市太郎家の生活用具である。

  岩泉家に関わる調査は、当時岩手県立博物館の学芸員であった名久井文明の「雑穀調査」(1981年〜)に始まっており、岩手大学の「博物館実習」は1991年から二年間、その調査に参加した。

  当データベースの実測図は名久井芳枝が作製したものと学生が二年間の実習で作製したものとを掲載している。

  対象の資料は94歳で亡くなられた岩泉市太郎氏(1904=明治37年生)の生涯を支えた生活用具である。

  その内容は杣、木挽き、木工、樹皮加工、藁加工、製炭、薪取り、牛飼い、雑穀栽培、種子食、その他と多岐にわたり、山村の暮らしの実態を具現すると共に、一人の男が山で生きていくための技術が網羅されている。

  しかしすでに失われている資料も多々あり、一軒の家の生活用具を全て記録できた訳ではない。失われている資料については、聞き取り調査ができた場合は、その情報を備考2に書き留めて補っている。

生活実態をありのまま伝えるデータベースへの工夫

 データベース化に伴う問題は、検索の基になるキーワードであるが、当分野が対象とする「もの」の名称には、地域の文化や意識、その他計り知れない情報が内包されている場合があり、不用意な名称の統一は、人文科学的な様々な情報をうっかり抹殺しかねない危険性をはらんでいる。

  また「もの」にはひとつの「もの」が様々な場面で使用される兼用性があり、生活文化の側面から分類されている文化庁分類にも納まりきれない「もの」が出てくる。

  分類の難しさを感じるが、この事実は人間の生活文化の多様性を物語るものと考えられるため、データベース化に際しては、資料を取り巻く生活の実態がありのまま伝わるような工夫が必要である。

  個人的にはMicrosoft社のソフトAccessによってデータベースを作成している。資料1点についてデータと写真と実測図を単票形式にまとめているが、これは一頁分で資料1点の情報を確認できる利点がある。

  またグループ毎の検索も可能であり、例えば「文化庁分類」「素材別製品名」等、フィールド名から自由に検索することが可能である。

  このデータベースの利点は、多様な生活背景の中で使用された「もの」の実態を、歪めることなく情報伝達できる点にある。データベースを公開する手段としても、数種類の出力形式を持ち、windowsサーバー上で有効に利用することができる。

公開用データベースの技術的問題点

 今回は、当データベース専用のwindowsサーバーを準備することができないという環境的要因により、資料カード形式の単票ページを公開するにとどめた。

 全文検索機能により、閲覧者が自由に入力するキーワードや、当データベース規定の分類項目で資料を検索することができるので、データベースに求める資料検索機能をある程度は満たすことができたと考えている。

当データベースの資料分類について

 当データベースでは有形民俗資料について以下の分類項目を設置した。

文化庁分類

 文化庁内民俗文化財研究会編著『民俗文化財の手びき』(第一法規、1979)にしたがって記述した。

 大項目・中項目・小項目に分類番号を付した。ただし(01)衣・食・住-(01)衣-(A)服物については枝番(a)〜(e)を設けた。

 分類番号は半角英数字で以下のように記述した。

(01)衣・食・住-(01)衣-(A)服物-(a)かぶりもの → 01-01-A-a

 

素材別製品名による分類

 名久井芳枝著『増補改訂版  実測図のすすめ』(物質文化研究所一芦舎、2003)にしたがって記述した。

 製品素材を表す素材別製品名を、有形民俗資料の主素材、副素材のそれぞれについて記述した。

 

分類項目名

 資料の分類項目名について、別途一覧表を掲げた。→分類項目名一覧表
全文検索の際にキーワードとして利用することができる。

凡例

  1. 当データベースでは、資料名は基本的に漢字混じりの平仮名、動植物名はカタカナで表記している。
  2. 実測図の寸法の単位はmmである。
  3. 当データベースはMicrosoft社のソフトAccessで作成している。
  4. 写真及び実測図は、それらの役割をあえてインデックス用と割り切り、画像の質やサイズを落としている。実測図はインデックスとしての役割ばかりでなく、研究者にとっては比較分析できる学術資料としての役割がある。しかし実測図は著作物であるため、デ−タベ−スを見て更に実測図が必要と考える方には、大学へ直接連絡して頂き、実費負担でコピ−をお分けする方法を採りたい。なお希望者が論文等に実測図を掲載する際は、出典と実測作図者名を必ず付記して頂くことを条件としている。

 

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