賢治とドイツトウヒ

 賢治の作品によく登場する樹木と言えばマツ(アカマツ)とヤナギ(シダレヤナギ、ネコヤナギなど)です。スギ、カラマツ、クリ、ハンノキ、シラカンバ、ナラ類(コナラ、ミズナラ)も高い頻度で登場し、山や森そして田園風景に欠かせない樹木でした。博学多才な賢治は花壇の設計や造園にもたずさわっており、外国樹種とくにドイツトウヒには特別の想いがあったようです。

 高等農林学校創設当時から本館(現農業教育資料館)周辺は、外国産のトウヒ類やモミ類を主体とする常緑針葉樹に包まれた景観をコンセプトにしていました。なかでもドイツトウヒは均整のとれた円錐形の樹冠を形成することから、主要樹種の一つでした。冬季の寒風や積雪にもよく耐え、良好な成長を示します。賢治は在学中、年ごとに発達する美しい幾何学体を目の当たりにしていたはずです。

 ドイツトウヒは、欧米ではクリスマスツリーとしても用いられています。材もきわめて良質なことから、建築材や器具材はもとより、ピアノなど精巧さを要する楽器などによく利用されます。

北欧のイメージぴったりのドイツトウヒ