侍屋敷町、山邊のマツ

 藩政時代、与力小路と上田新小路の高台には、総檜づくりで回り縁側や高級な床の間のついた大きな家々が建ち、丹精こめた庭を配していました。近隣に住まった明治の古老は、「むかし相当な身分の侍がいたもンだったと思うなッす」と回顧しています。この高台に盛岡高等農林学校の校舎が建築されたのが明治36年で、通用門を入ってすぐ正面が山邊邸のお庭にあたります。やはり、当家の庭園は、ひと際みごとだったのでしょう。現存するゴヨウマツ老大樹の伏臥姿に、当時が偲ばれます。

 このゴヨウマツ、針葉が5本束になるのでそう呼ばれますが、ヒメ(姫)コマツの別名があります。岩手では、山地帯上部の峰通りなどに生育し、岩礫地にもよく出現します。激しい風衝地などでは低木匍匐(ほふく)形をとり、しばしばハイマツと混生します。両種の交雑種が、ハッコウダゴヨウです。ところで、通用門そばのイチョウの大木は、開校にあたり玉利喜造初代校長が植えた記念樹です。百年の星霜を経ても、樹勢は衰えることを知りません。

斜上・葡萄の育成形がハイマツによく似るゴヨウマツ