宮澤賢治とハクウンボク

あさひふる はくうんぼくの花に来て

       黒きすがるら しべを噛みあり

                  歌稿  大正六年五月より

 賢治の座右の書の一冊に、牧野富太郎著「日本植物図鑑」があったことはよく知られています。賢治の歌や詩には、樹木、野草から穀物、野菜、草花にいたるまで様々な植物が息づいています。童話を含めた作品に登場する植物の総数は、250種をはるかに越えると言われています。大地に生きる植物群は、作品の原風景に欠かすことができなかったと言うより、原風景そのものだったのでしょう。

 ハクウンボクは、東北地方では丘陵地から山地帯にかけてよく出現する小高木で、実に多くの特徴をもっています。樹皮は平滑で暗褐色、枝は外樹皮がはげジグザグに曲がります。葉柄の基部が膨らみ、腋芽とともに枝を包み込みます。初夏の頃、新枝の先に15センチほどの総状花序を出し、20個近くの白い花を着けます。花冠には白い星状毛が密生します。幹の基部から萌芽枝が発生しやすく、萌芽株を形成して長く生き残るようです。賢治の詠んだハクウンボクは、本株あるいは本株周辺に生育していたものではなかったかと、言われています。

形態特徴の多い個性派樹木ハクウンボク